宇宙の詩人 貘さん

食いそこなった僕


僕は 何を食いそこなったのか!


親兄弟を食いつぶしたのである
女を食い倒したのである
僕をまるのみしたのである


どうせ生きたい僕なんだから何を食っても生きるんだが
食えば何を食っても足りないのか
今では空に背を向けて
物理の世界に住んでいる
泥にまみれた地球をかじっている


地球を食っても足りなくなったらそのときは
風や年の類でもなめながら
ひとり 宇宙に居のこるつもりでいるんだよ






                    (山之口貘『思弁の苑』)